子どもにルールのある遊びを教えたい―ルールが覚えられないその分けと伝え方ー
私は児童支援発達事業所で保育士として働いてます。
先日、その職場で職員会議がありました。
その中で『猛獣がりに行こうよ』を動物園バージョンにしたゲームをしたのだけれど、
子どもたちがなかなかルールを覚えられない。
という話題になりました。
私の職場では自閉症やADHDなど発達に困難を抱えているお子さんが来ています。
そんな子ども達がなぜルールを覚えられないのでしょうか。
自閉症やADHDなど発達障害の子どもたちにルールある遊びを教えられるのでしょうか。
今回は発達障害の子どもたちが、なぜルールある遊びを覚えられないのか。
そしてどのような方法なら覚えられるのか解説していきます。
この方法はどんなお子さんでもあてはまることだと思います。
なので、すべてのお父さん、お母さん、保育士さん、子どもに関わる方はぜひ読んでみてください。
ルールのある遊びが覚えられないのは、記憶の仕方に原因があった
ルールある遊びが覚えられないのはなぜか。
その理由を考えると様々なことが考えられます。
例えば、
- 姿勢を保持するために必要な体感筋が育っていないから。
- 大人が説明する言葉の意味が分からないから。
- 他者への興味が薄く人と遊ぼうと思っていないから。
いろいろな理由が挙げられるのですが、今回は子どもの記憶する力にフォーカスを当てて説明しようと思います。
姿勢保持に関する時期時はコチラを参照ください。
さて本題に入ります。
「記憶」にはいくつかの種類があります。
大きくわけて「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」の3つです。「感覚記憶(Sensory memory)」とは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、といった感覚器官ごとに存在する、非常に保持時間の短い記憶のこと
短期記憶(short-term memory)」とは、比較的短い期間、頭の中に保持される記憶のことです。短期記憶は、感覚記憶よりは長い時間保存されている記憶のこと
「長期記憶(Long-term memory)」とは、短期記憶がリハーサル(頭の中で何度も繰り返す行為)によって、比較的長い期間、保持される記憶
視覚的記憶は、目で見て覚える記憶のことです。
聴覚記憶は、耳で聞いたことを覚える記憶のことです。
通常はこの二つの記憶をバランスよく使い覚えていきます。
しかし発達障害の特性があると、どちらか一方に偏りがみられ、何かを覚えるときに困難が生じることはよくあります。
自閉症のお子さんと多くかかわっていると、言葉のやりとりは難しいけど、電車の名前、国旗、土地や国の名前をよく覚えているお子さんが多いです。
また、言葉の語彙数は多いけれど、使い方が間違っていたり、コミュニケーションとして使うと違和感を感じることもあります。
それは耳で覚えた言葉と目で覚えた事象が繋がっていないことからきています。
もっとわかりやすく説明します。『リンゴ』という言葉がありますね。
これを読んでいる人は、『リンゴ』という言葉を見て、頭の中で、赤くて丸くて食べたらシャリシャリという甘い果物をイメージできたと思います。
それは、目で見た果物のリンゴの映像と、耳で聞いた『リンゴ』という言葉が、脳が上手に処理してそれがおんなじことだと理解してくれているからできる技です。
しかしどちらかに偏りがあると、
『リンゴ』という言葉は音としてあるけれども、赤くて丸いリンゴのイメージと一致することができていない。
もしくは赤くて丸いリンゴのイメージはあるけれども、『リンゴ』という言葉の音と一致していない。
ということです。
つまりどちらかの記憶が強いと、それだけを覚えてしまい映像と言葉が結びついていないために、事象を正しく記憶することが難しくなるのです。
ルールが覚えられないのは、刺激が多いから。
また、ルールのある遊びを覚えられない原因は、目に見える刺激もしくは耳で聞こえる刺激を全て吸収しているということも考えられます。
どういことかわかりやすく説明するために、私の職場であったことを話します。
ある支援者は、私が働いている事業所の駐車場で『猛獣がり行こうよ』を、子どもたちに教えようと考えました。
掛け合いの言葉、遊ぶときに必要な動きを一つずつ丁寧に伝えていました。
しかしある子どもは、支援者のほうを見ていません。
気になるのはその背景にある木々が風に揺れている風景。もしくは太陽がきらきら光る木漏れ日です。
でも話を聞いていないかというと、そうでもありません。
支援者が「先生、今、なんて言った?」と聞くと説明したことをきちんと言うことができました。
というエピソードです。
本来なら、先生が前に立つと先生の動きと、説明する言葉に耳を傾けそこに注目を維持します。
しかしこのエピソードに出てきたお子さんは、注目するべき支援者には視線を向けず、ちらちらと揺れる木々に目が向いてしまっているのです。
ADHDの多動傾向にあるお子さんに多い姿ですが、刺激の量が多いといろいろな場所に気が散ってしまい、一つのことに注目を持続することが難しいということです。
記憶力をチェックする方法
ルールある遊びを教える前に、あなたのお子さんは、目で見て覚えることが得意か、耳で聞いて覚えることが得意かチェックしてみましょう。
療育施設に通っていて、そこに言語聴覚士や作業療法士、理学療法士や心理士さんがいるのであれば相談してもらってもいいです。
しかしそうでない場合も、簡単なチェック方法があります。
名付けて、お買い物ゲーム。
用意するものは・・・
- 写真カード2枚
もしくは、
- おままごとで使うフィギュアや道具
- トミカの車
- ぬいぐるみ
などなど、身近にある玩具とそれを写真にしたものです。
まずは2枚のカードもしくは2つのおもちゃを子どもから離れたところに置きます。
視覚的な記憶をチェックする場合は。写真を見せて「コレ取ってきて」と伝えます。
けして「ぬいぐるみ とってきて」と名称を伝えてはいけません。
名称を伝えてしまうと、目で見て覚えたのか耳で聞いて覚えたのか分からなくなってしまいます。
逆に、聴覚記憶をチェックする場合は、「ぬいぐるみ とってきて」と言葉だけで伝え覚えていられるかチェックします。
基準は以下のお通りです。
年齢 | テーブルに置く絵カード(オモチャ)の数 | 覚えてもらう数 |
2歳半 | 2枚(個) | 1項目 |
3歳~4歳 | 4枚(個) | 2項目 |
4歳~5歳 | 6枚(個) | 3項目 |
5歳~6歳 | 8枚(個) | 4項目 |
このチェックを行うことで、一度に覚えられる度合いがわかります。
もし1項目はクリアしたけれど2項目は難しかった場合、一度に伝えられるのはひとつのことだけです。
するべきことを一つ伝えて行動してもらう。次にすることを一つ伝えまた行ってもらう。
このように伝えていくことで、子どもは、大人が伝えたいことを理解することができるようになります。
このようなチェックをして現実を目の当たりにすると、落ち込んでしま親御さんが多いです。
もしくは、「これくらいしかできないの」と悲観して、記憶力を高められるような保育を考える保育士さんもいます。
しかしこのチェックは、子どもがその事象を、その子にとって覚えやすい方法を知るための判断材料です。
子どもをできる・できないの評価だけで終わらず、どうすれば伝えたいことが理解できるかを考える判断材料にしてほしいと思います。
ルールのある遊びの伝え方
さてさて、では子どもの覚え方の特性が理解できたら、今度は伝え方です。
視覚で覚えることが得意な場合は絵や写真を順番に並べ同時に提示することがいいです。
また実際に大人や子どもが遊んでいる姿を見せることもおすすめです。
ただし、教える場所にその遊びに関係のないポスターや張り紙、もしくは環境があるとそちらに目が行ってしまううことも大いに考えられます。
しっかりと教えたいのであれば、余計なものは取り除き見るべきポイントが明確になるようにしましょう。
外で行う場合や、体育館など広めのホールで行うことも、視覚的な記憶が良いお子さんにはむしろ事象を覚えにくい環境です。
まずは狭い環境の中でルールを丁寧に伝え、そこでできるようになってから、広い場所で遊んでみましょう。
聴覚で覚えることが得意なの子でも、視覚的な資料は有効です。
ただし、同時に見せるのではなく、今やることをその子が覚えられる項目だけ伝えます。
もし1項目覚えられるのであれば、視覚的な資料を1枚だけ提示します。それができたら次の行動を1枚提示します。
2項目覚えられるのであれば、やるべきことの2番目まで提示するといいでしょう。
聴覚で覚えられる場合も、環境に注意しなければ、余計な言葉が入りすぎてしまうこともあります。
ざわざわとした場所や自動車の音が聞こえると、そちらに反応して、聞くべきことが聞けない場合もあります。
静かな環境の中で、説明する言葉はそこ子が覚えらる項目のみ。
例えば、鬼ごっこを説明するときはこんな感じです。
①「ジャンケンするよ」
ジャンケンをする。
本人が負けた場合
②「10数えてね」
数字を数え終わったら
③「みんなを追いかけるよ」
すごくシンプルかもしれませんが、1項目覚えられるのであればこれくらいの言葉数のほうがわかりやすいです。
保育園や幼稚園、さらに小学校では、年齢が高くなればなるほど先生に対する子どもの数が多くなります。
しかし、ルールが覚えにくい子どものお中には、大勢の中で先生が説明していても、それが自分にも伝えていることがわからないお子さんもいます。
ですから大人が対1でじっくりと伝えていくことも、子どもがルールのある遊びを覚えるコツです。
まとめ
ルールのある遊びを覚えるためには、記憶する力がとても大切です。
この記事では発達に特性がある子どもにフォーカスをあてていますが、定型のお子さんでも覚え方の得意不得意はあると思います。
さらに今回は、視覚記憶と聴覚記憶に特化して伝えてきましたが、どのの覚え方がいいかは子ども一人一人違います。
今回紹介した以外にも、文字にしたほうが良いこともあれば、経験していく中で肌感覚で覚えていくこともあります。
要は、そのお子さんがどんな伝え方であれば覚えやすいかを、大人が理解してあげることが大切だということです。
お子さんの得意な記憶の仕方を覚えれば、ルールのある遊びだけでなく、学校での勉強でもどのようにしたら覚えられるかを、子どもに的確に教えることができます。
この記事を機会に、ぜひ自分のお子さんの記憶力について考えてみてください。